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「でね、4月になって、塾の高等部に行ったら、なんとあの時の人が塾講師としてそこにいたわけ。

それが五味先生。

五味先生、4月から塾講師のバイトを始めたみたい。

あたし、あの時オジサンから助けてくれたヒーローと、再会したのよ。

これこそ小説顔負けのドラマチックな展開じゃない?」



「確かに。それはすごくドラマチック」



「五味先生って、無愛想でしょ。

無表情なこと多いし、いつも冷静で冷たいイメージで。

でもね、本当は、すごく温かい人だと思うの。

きっと不器用で、表現できないだけで」



なるほどね。

あたしは、まさに無愛想で冷たい人だと思ってたけど……


あたしの知らない五味先生の顔を、カヨは知ってるんだね。



どうして好きになったのか、なんて、とんだ愚問だった。


人の本質は、表面を見ているだけじゃわからないものだもんね。



「大切なものは、目に見えない」



あたしは、子どもの頃に読んだ童話「星の王子さま」の一節を、ふいに思い出した。