「あ、アリさんだ〜!」
そう言った女の子は、アリの行列の傍まで駆け寄りアリの観察をはじめた。私も小さい頃よく同じことをしていた覚えがある。
「ふんふん、ふーん♪」
鼻歌まで歌って随分ご機嫌なようだ。…ってなんだろう。私、幼女を見つめる変態みたいじゃないか!
いけないいけない、と少女から視線を外そうとした、ちょうどその時。
「ね、おねーさん!おねーさんも一緒にかんさつしよ?」
突然、少女に声をかけられた。今この公園には自分と少女しかいないので私に声をかけたのは間違いないだろう。思わずあげそうになった奇声を押し殺し、少女を見つめる。多分、今の私の顔は相当マヌケなものだろう。ぼけっとしてる内に少女は私の座ってるベンチまで来て、にこにこと無邪気な笑顔を振り撒いていた。…かわいい。この子の親は誘拐されるとか考えないのだろうか。
まぁ、余計なお世話にすぎないのだろうけど。
それにしても。この子はなんで私を誘ったんだろう?もしかして見つめてたことがばれて−…
「おねーさん、あたしのこと見てたでしょう?アリさんのかんさつしたいんだよね?!」
…た。
どうしよう、とっても恥ずかしい。
少女はまだにこにこと笑っている。その様子に思わず笑ってしまう。
「じゃあ、一緒に観察していーい?」
そう声をかけると、少女は今まで以上の笑顔を見せた。眩しい、眩しいぞこの子の笑顔!!!
一緒にアリの行列のところまで移動し、座り込む。あとはひたすら眺め続けるだけだ。隣からはふんふんと聞いたことのないメロディーが流れてくる。
−数10分、ずっとそうしていたと思う。
「あのねー、」
不意に、少女が口を開いた。
「この前ね、おとこのこがね、ありさんふんじゃったの」
さっきと全く変わらない、笑顔で。
「そしたらね、そのおとこのこ、死んじゃったんだって!」
恐ろしいことを口にした。まぁ、どうそ嘘だろうけど。
「かわいそうだねー…」
「そーう?だって、ありさんふんじゃったんだよ?」
「…でも、」
「あ、ママが呼んでる!じゃーね、おねーちゃん!!」
「え、あ、バイバイ!」