ラーメン屋、「伊吹」を出ると、優介は築30年を過ぎた古びたアパートにバイクを停めた。

薄暗いコンクリートの階段を上がって重い扉を開く。

「母さん、いるの?」

部屋を覗くと、中央に置かれたソファーに、母の信子が横になったまま寝ている姿が目に入る。

床や机に散らばった大量のビールの空き缶を見て、優介はため息をついた。

以前は酒など飲まなかった信子がアルコール依存性になったのは、3年前に夫を亡くしたその時がきっかけだった。

「起きろよ。こんなとこで寝るなって」

優介が信子の肩を揺すると、泥酔した信子の腕が優介の手をきつく振り払った。

「うるさい、不良息子!」

「いいから、隣の部屋行けよ」

優介は信子の両脇を抱え、無理やり起こそうとするが、信子は腕を振って子供のように抵抗した。

「うるさいったらばか息子!お父さん何とかしてよ!」

「親父は死んだだろ!」