「宗一、町工場の機械整形技術っていうのはすごいんだぞ。
最新のICチップを製造するのは数10マイクロン単位での技術力が必要なんだ。
それができるのが、町工場の『人の手』だ。
最新のコンピューターでも出来ない。
NASAの月まで行けるロケットはな、日本の町工場の技術がないと飛べないんだぞ」

オカジマの父が幼いオカジマの頭に手をおいてそう話すのを、オカジマはいつも誇らしい気持ちで聞いた。

「いつか俺がオカジマ工業を世界のオカジマにしてやるからな」

ガラスの引き戸の向こうにぼんやり浮かび上がる薄暗い工場にいつものように誓い、オカジマは玄関を出た。

玄関の脇を抜けると、車が4台は泊められるコンクリートの広い駐車場がある。

かつては岡嶋工業の従業員のバイクや車でいっぱいだったそこには、今はオカジマのバイク2台だけがひっそりと停めてある。

オカジマが駐車場に着くと、先にいるはずのハイジの姿とハイジのバイクがなかった。

「ハイジのやろう…どこ行きやがった…」

落ち着きのないハイジのことだ。
先に優介達の所にでも向かったか。

オカジマがそれとなく、辺りを見回した時だ。

ふいに人の気配がした気がして、オカジマはバイクの方に目をやった。