紫陽花階段を目の前にして、その静けさに胸がざわめく。
目の前に積み重ねられていく石畳が、まるで闇への入口に感じられた。
あの最上段にはアレがいるのだろうか?
今にも頭上から、目の前からアレが飛び掛かってくるんじゃないか。
心臓の高鳴りが大きすぎて、頭が動かない。
もうこれ以上堪えられない。
「行くぞ。」
「ヒュッ」
淳の声に自分が呼吸を忘れていた事に気付く。
「お前大丈夫?」
遠藤が懐中電灯を僕にあててきた。
こんなんじゃダメだ。
「すーはーすーはー」
僕はゆっくり深呼吸をした。
「うん。」
僕達は階段を一段一段上りだした。
辺りの暗さは益すばかりなのに何だか違和感がある。
暗闇の中、月の明るさだけで紫陽花はあれほど鮮やかに見えるものなのか?
小さな花の一片一片が脳裏に絡み付く。
「何だか両端から紫陽花に見張られてるみたい。」
僕は両隣りに立つ2人の腕を無意識の内に掴んでいた。
「ああっ」
2人から直ぐに相槌が返された。
短い相槌は2人とも同じように感じてたって事?
昼間は物悲しいくらい静かな紫陽花が、今は夜の暗闇で恐ろしい程に咲き誇っている。