あれは昼休みの屋上、淳の一言から始まった。
「俺、下校する時に例の階段で転げ落ちてさ。見ろよ、これ。」
淳は制服のシャツの袖を捲くってみせた。
「ドジだな。うわっ、何だそれ。ちゃんと病院行ったのかよ。」
そういえば、遠藤は血を見るのが苦手だったんだ。
「まだ痛む?」
僕は淳の傷に触れないように、シャツに手をおいた。
「痛っ、昨日は半袖だったから、そこも結構擦りむいたんだ。」
とても擦り傷とは言えないけど、まあ大事にならなくてよかった。
「俺の傷自慢がしたいんじゃなくて、例の階段で誰かに押されたんだ。」
淳は真剣な顔でうったえている。
「例のって紫陽花の階段?誰に押されたか分かってるの?」
僕は淳が捲くったシャツをそーっと元に戻す様子を見守りながら聞いた。
「それが押されたと思った次の瞬間には、階段の一番下まで転げ落ちてた感じで・・・」
そう言って淳は頭をかきだした。
これは淳が何かを思い出そうとしている時の癖。
「お前、押されて落ちて、それから階段に上って確認しなかったのかよ。」
遠藤はまるで自分が落とされたみたいに怒っている。
「うーん、落ちてから咄嗟(とっさ)に階段の上は見上げたんだ。一瞬おさげ髪の女の子がいたような気もするんだけど。とにかく全身痛くて、それどころじゃなかったんだよ。」
淳は腕をやんわりと摩りながら顔を歪めた。