「消えちゃった。」
僕は何も出来ないまま呆然と立ち尽くしていた。
「崩れていた落ち武者も一諸に消えたみたいだ。」
淳が辺りを見回して言った。
「今回はもうダメかと思った。」
その場に倒れながら淳が大きな安堵の声を漏らした。
「あっ、一人置いてかれてる。」
淳の指差す方向に振り返るとお札に捕まった生徒の霊がうずくまっていた。
僕達はゆっくりとその霊に近付いた。
「お前、心残りがあるのか?それとも怨みをはらしたいのか?」
遠藤がズバリ核心に迫る。
「チガウ。ボクタスケタカッタダケ。」
小柄な霊の声は何処か非日常な気がした。
「助ける?」
遠藤はさらに一歩、生徒の霊に近付いた。
「ココキケン。カエレツタエタ。」
小さな声は聞き取りにくかった。
「もしかして、落ち武者の霊が危険だから僕達を逃がそうとしたの?」
生徒の霊は黙ってコクリと頷いた。
その時の僕は無意識だったんだと思う。
生徒の霊に貼り付けられたお札を黙って外してしまった。
多分、淳にも遠藤にも止める暇はなかったと思う。
生徒の霊はすぅっと立ち上がって、空気に溶ける様に消えてしまった。