体育館に入ると予想外に静まりかえっていた。
「いるんだろ。出て来い。」
遠藤が高い天井からさえはね返る大声で叫んだ。僕達はそれぞれの懐中電灯を辺りに照らしながら、体育館の中央に近付いて行く。
「うわっ」
体育館の中央に近付く手前で3人とも後ろへふっ飛ばされた。
「カエレ。カエレ。カエレ。」
まるで木霊みたいにエコーを繰り返して、その幽霊が正体を現した。
暗闇にすーっとあらわれたその霊は全体に白っぽくて体操着を着ている。小柄な生徒を偲(しの)ばせた。
「カエレ。カエレ。カエレ。」
小柄な生徒の霊が一歩近付く。
「うわあっ」
さらに僕達は引っ繰り返って入り口手前まで押し戻された。
「これでどうだ。」
淳は片膝を床に付けたまま浄めの塩が入った巾着を小柄な生徒の霊に投げつけた。
「ギャァー」
霊は両手で顔を押さえて悶えていた。
「すげぇ~何だよ、この塩。」
遠藤がアクションヒーローでも観てるみたいに興奮している。
「本当に効き目があるんだ。驚いた。」
淳は自分の持ってきた護り道具の効き目に驚いていた。
おいおい。って、つっこんでる場合じゃなかった。
「お守りは自分で持っていたいから、お札を霊に貼り付ければいいの?」
僕は淳に呼び掛けた。
「多分。」
「げっ」
多分って何だよ。
僕が巾着を投げるか霊にお札を貼るか悩んでるうちに遠藤が霊に近付いて霊の頭にお札を貼り付けた。
「ワアアアアッーァァァ」
霊はしゃがみ込んで動かなくなった。
「やった。霊をやっつけた。」
僕達はお互いに駆け寄って抱き付いて喜ぶ筈だった。
でも僕達は3人で手と手を取り合いながら恐怖で目を見開いた。