「まだ体育館の幽霊について報告してなかったわね。」
体育館に向かいながら花子さんは説明を始めた。
「体育館にいる霊は8年前に同級生のイジメで亡くなった生徒だったわ。」
「イジメ・・・」
遠藤が繰り返したその言葉は風に消される程、小さなものだった。

「当時は不幸な事故で片付けられたの。授業の後、跳び箱の中に押し込められて、上からマットで押さえつけてあったって。」
花子さんは自分の事みたいに傷付いた顔をしている。
「でも誰か助けに行かなかったの?」
僕は両手で口を押さえながら、過去の恐ろしい事件に身震いした。
「誰も。夜になっても帰ってこない息子を心配して両親が警察に届けたの。でも見つけた時には、発作で亡くなっていたの。」
花子さんは左右にゆっくりと首をふった。
僕達も言葉が見つからない。
不幸な事故?
そんなのそんなのイジメによる殺人じゃないか。
その子を思うと堪らない気持ちになる。
まだ小学生なのに。
しかもイジメなんて。
誰も助けに来てくれなくて。
もしも僕がそんな風に死んじゃって、でも他の子は元気に楽しそうに、もしかしたら退屈そうに授業を受けていたら・・・
「でも、だからこそ油断しないで。怨みを持った霊は、とても危険だから。」
花子さんは自分に言い聞かせるように言った。

そうだよ。可哀相だからって、このままでいいわけない。
僕達は全力で体育館の霊を止める事を心に誓った。