2階に足をおろした時、「ガシャン」という音が廊下に鳴り響いた。
「犯人がまだいるぞ。」
僕達は花子さんを追い越してトイレに駆け込んだ。
「どうしてこんな事するんだ。」
遠藤の声に犯人が振り向いた。
「誰だ。」
遠藤が懐中電灯を声の方向に向けると、犯人が手に持っていた鉄の棒を握りなおしたのが見えた。
「邪魔をするならお前達もぶっ叩くぞ。」
犯人は鉄の棒を振り上げて僕達に向かってきた。
「やめてっ、お父さん。」
花子さんが僕達の身体をすり抜けて、目の前に両腕を広げて立ちはだかった。
「お父さん?お父さんってこのおじいちゃんが?」
僕達はお互いの顔を見回した。
「万里花?」
犯人は手に握りしめていた鉄の棒をその場に落とした。
「そう万里花よ。お父さん、万里花よ。」
花子さん、いや万里花さん?
万里花さんはぽろぽろ光る涙を流した。
「お父さん、どうしてこんな事を」
万里花さんは一歩だけ足を前に踏み出した。
「万里花っ」
犯人もまるで何かに操られるように前に踏み出して、ばっと万里花さんを抱きしめようとした。
けれど犯人の腕は万里花さんをすり抜けてしまった。
「あっあっあ~っ」
犯人はその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。