プレシャス・ムーン

「うるせぇっ」

 数人の男たちが殴りかかる。

 彼は、ひるむ事なくその腕を掴んであざやかに投げ飛ばした。

 そして不敵な笑みを男たちに投げかける。ミカには半分、あざ笑っているようにも見えた。

「そうだな……一方的に攻撃するのは少々、心が痛む」

 言葉とは裏腹な無表情な顔で続ける。

「名乗るくらいはしてやろう」

 その、抜群のスタイルですらりと立ち静かなよく通る声で言い放った。

「ベリルという。ミッシング・ジェムだ、覚えなくていいぞ」

「!」

 その言葉に、ミカは微かな記憶を脳裏に浮かべた。

 聞いた事のある言葉、どこでだったろう……ミカは必死で頭の中の記憶をたぐり寄せた。

「!」

 そして、いつかの人類歴史学の講義で教授が私語程度に話していた事を思い出した。