プレシャス・ムーン

「……やだ」

 いやだ……離れるなんて。泣きそうな顔で、ミカは必死に抵抗する。

 ベリルは苦笑いを浮かべミカに言い聞かせるように口を開いた。

「私に会った事は不幸だよ」
「そんな事無い!」

 ミカは声を張り上げる。

「……」

 そんな彼女を見つめて、ベリルは小さく溜息を漏らした。

 そしてエメラルドの瞳でミカを見つめてささやく。

「お前の記憶に留まる事は可能か」
「うん、忘れない」

 ミカは何度もうなずいた。ベリルは、彼女の肩に両手を置いて顔を近づける。

 それにミカは目を閉じた。唇に暖かな感触。優しいキスだった。

「月が綺麗だよ」

 言われて、ミカは月を見上げた。

「さよなら」

 声は、振り返った先に人影を映さなかった。