プレシャス・ムーン

『人類の歴史の中でまれに“ミッシング・ジェム”という単語が出てくる時があるが。出てきたとしても、記憶に値するものではない。なぜなら、それは人類の歴史にあるべきものではないからだ』

 頭の中で、教授の言葉がこだました。

「ぐえっ」
「!」

 男の叫び声でミカは我に返った。また1人たたきのめしたらしい。

「……ミッシング・ジェム」

 この人が、本当に……? ミカは、ベリルと名乗った青年を見つめる。見惚れるような流れる動きに、ミカは目が離せないでいた。すると──

「くそっ」

 何人かの男がナイフを取り出した。ベリルという青年は、それに厳しい目を向ける。

「……」

 ナイフを持った自分から一番近い男に素早く駆け寄り、そのエメラルドの瞳で睨み付けた。

「ヒッ!?」

 それだけで、男は動けなくなった。その男を睨みながら、ナイフを持っている腕を静かに掴む。