顔を掴まれたまま、視線もがっつり絡まったまま、私はしんちゃんに話した。



「どうしてももう一度会いたいって思ってた人がいたの。やっとその人に会えたんだけど…奥さんと子供がいたの。さっき見ちゃった。そしたら涙が止まらなくて」



 私がそこまでいうと、しんちゃんはそっと顔を掴んでいた手を離した。



 運転席に深くもたれ、目だけで私を見た。話の先を促すように。



 私も助手席の背もたれにもたれて。



「子供を真ん中にして三人で手を繋いでてね。それを見たら…そしたら急に息苦しくなって…なんかっ…わかんないけど、どうしても…止まっ…止まらなくっ…てっ…」



 しんちゃんに伝えながら、頭を過ぎるのはさっきの親子三人の姿。



 話ながらもまた涙が出てきて…



「っ…ぅ…」



 それ以上話すことができなかった。



 泣いてたらしんちゃんがこまるだろうな…



 私を好きだって言ってくれてるしんちゃんの前で、ほかの男の人のことで泣かれても、しんちゃんは嫌な気分だろう。



 えぐえぐ言いながら泣き止まない私の隣で、しんちゃんは黙ってタバコを吸っていた。



 相変わらず、すぐ隣で吸っているのに煙は全く車内には入らず、匂いすらしない。



 なんで名前も知らないのに、好きになってたんだろう。



 こんなに悲しいのはなんでだろう。



 どうして………



「相当…好きなんだな」



 しんちゃんが、静かに言った。



 見えてるかどうかはわからないけど…



 こくん、と頷いた。



 そう、好きだったんだ。思い出すだけでも泣けるくらい、今でも好きなんだ…



「…うらやましいな、そいつ」



 小さな、ホントに小さな声で、しんちゃんが言った。



 いつもの俺様でつっけんどんな話し方とは違う、しんちゃんのその言葉と優しい声に、



 なぜだか、また涙が溢れた。