いつもの如く、斉藤の蘊蓄話が始まった。

とてもテストに出るとは思えない細かい内容を語り始めては、授業が遅々として進まなくなるのだ。

「さぁ、その有名な言葉とは!?はい、山下」

クイズ番組の様なノリで、山下を指差す斉藤は子供の様な笑顔をしていた。

「敵は本能寺にありーー!」

山下も斉藤に負けじと前方に大きく手を突出しながら、ノリノリで答える。

「正解!山下天才!」

誰でも知っている様な答えを大袈裟に褒める斉藤だったが、何故か嫌味を感じさせない。

そんな二人の遣り取りを見て、あちらこちらで笑いが起こっていた。

優もクスリとだが微笑んでいる。

優は彼の授業が好きだった。元々、歴史は好きな方ではあったが、それよりも斉藤の授業自体が面白いからだ。

淡々と教科書の内容を進める教師が多いなか、彼は生徒を楽しませながら講義してくれる。

蘊蓄話もその内の一つの手段なのかもしれない。

その時、終業のチャイムが鳴り響いた。

「よし、今日の授業はここまで」

斉藤は笑顔でそう告げると、教卓に広げられていた教科書などを整理し始めた。