「それに僕の名誉が傷付くくらいでそんな事出来るわけないし、あと尾崎さんもわざわざ言い触らしたりしないと思うし…」

「さっき、僕に喋ってきたよ」

「え？」

優はなるべく空也の顔を見ないようにしていたが、その言葉に反応して、思わず彼を見てしまう。

「優君に会う前に彼女と会ったから。会った瞬間、その事喋ってたよ」

「本当に！？」

「本当に。『あいつ、マジキモい！』って」

冗談めかす様に由姫の口調を真似する空也だが、優の顔は青ざめている。

「ど、どうしたらいいの…ぼ、僕？」

「だからさっきも言ったじゃん…」

空也は優の目をジッと見詰める。その目は彼の心の奥底に眠る闇の部分に訴えかけるように、瞬き一つせず凝視している。

目を逸らしたい優の意志に反し、人ならぬ巨大な手に頭を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、目だけでなく顔すらも動かすことが出来ない。

空也の双眸も優の瞳を捉えて離さない。

茶色っぽい空也の瞳の色が徐々にだが青みがかってくる…

そう優には見えた。

ゆっくりと空也が口を開く。

「コロシチャエバイインダヨ」

そう言い放った空也の声音はあの夢の中の得体の知れないエコーがかった声とぴったりと重なった。