「でも何かされたわけじゃないし…」

「私が来なかったらされてたでしょ。隙が多過ぎるのよ、あなたは」

涼子はちょっと考える素振りをみせた後、小さく頷いた。

「そうかもね。なら、私も悪いかも」

「そうじゃなくて…」

「良いの、何もなかったんだから。気にしないで。ありがとう、尾崎さん」

ペコリと頭を下げる涼子を、腕組みをして憮然とした表情で由姫は見ている。

「私が面白半分で覗いてから良いようなものの…」

「面白半分?」

涼子が鸚鵡返しの様に尋ねると、由姫は軽く溜め息をついた。

「…あなた、いつか痛い目に遭うわよ」

由姫は予言めいた言葉を吐くと、未だに呆然としている優を一瞥してツカツカと教室を出ていった。

教室を一気に静寂が訪れる。

涼子は慌てて自分が作業していた場所まで戻ると後片付けをし始めた。

「私、帰るね」

優とは視線を合わさないように素早く片付けると、そそくさと教室を出て行った。

優は彼女の背中に声を掛けようと勇気をふり絞ってみたが、彼の口からは何の言葉も出てはこなかった。