彼の名は佐々木 優(ゆう)。

ごく平均的な公立高校に通う、ごく平凡な高校二年生だ。

人付き合いは下手とまではいかないが、敢えて自分から人に関わっていく様なタイプではない。

友人と呼べる人間は数える程しかいなく、あとは学校内でたまに会話をする程度の人間がほとんどだった。

勉強にしろ、スポーツにしろ、何か秀でたものを持っている訳ではない彼は、所謂目立たない存在だった。

かと言って、苛められる対象という訳でもないので、ある意味苛められっ子より存在感は薄かった。




「行ってきます」

挨拶にうるさい母親に一声かけ、玄関を出ると自転車の置いてあるガレージに向かう。

教科書やらが入っている鞄を前籠に入れると、自転車で二十分程の距離がある高校に向けて走り始めた。

走り始めて十分もすると、同じ学校の人間が何人も自転車を漕いでる姿が見えてくる。

その中に何人か見知っている顔もあったが、声をかけるでもなく、ひたすら学校を目指した。

「おっす」

突然、後ろから声をかけられた優は、軽く振り返る。

「ああ、おはよう」