優の肩にそっと触れながら、漸く息が整いつつある優に優しく問い掛けた。

「……母さん」

今の今までその存在にすら気付いていない様子で、チラリと目だけを動かして相手を確認すると、優は小さく呟いた。

「……よく…分かんないや」

そう答える優の顔を佳子は不思議そうな顔で見ている。

「よく分からないって……あんまり覚えてないの?」

「……うん」

あのうなされ方で忘れているとは思えなかったが、佳子はこれ以上追求してはこなかった。

「朝御飯できてるわよ」

佳子はそう言って、優の肩をポンポンと叩くと部屋を出ていった。

佳子が下の階に降りていく足音が聞こえてくる。

その足音を聞きながら、優は朝の準備に取り掛かるでもなく、眉間に皺を寄せて考えに耽っていた。

(何で嘘ついたんだろ?)

先程の彼自身の言動は、追求される煩わしさよりも、あの夢の内容を誰にも喋ってはいけない様な感覚に囚われたからだった。

(……でも、何で?)

「優、ご飯冷めるわよぉ」

彼の思考を邪魔する様に、階下からのんびりとした佳子の声が聞こえてきた。

「分かった、今行く」

彼は佳子に聞こえる様な大きい声でそう答えると、パジャマのまま一階の台所へと向かった。