試しに手を目の前に持ってくると、視覚としては認識出来なかったが、手の存在は微かに感じられる。

その手で顔をペタペタと慌てて触ってみると、顔の存在が触覚で認識出来た。

(体がある…)

そう思うと同時に暗闇で蝋燭に火を燈した様に、優の周りが淡くぼんやりと浮かび上がった。

ーー覚醒せよ!

小さな小さな光ではあったが、深い闇でのそれはその存在を何十倍にも感じさせた。

だが、逆に闇の深さを更に感じさせる要因にもなった。

闇に飲み込まれそうな感覚にゴクリと喉を鳴らすと、光を頼りに、辺りを目を凝らして見てみる。

が、優以外の存在は皆無だった。

ーー覚醒せよ!

怯えにも似た孤独感を覚えた優に追い討ちをかける様に、あの声は止むことなく聞こえてくる。

「うるさいっ!」

その恐怖を誤魔化す様に大声で喚く。

ーー覚醒せよ!

しかし、そんな優を嘲笑う様に声は止むことはなかった。両手でギュッと痛いくらいに耳を塞ぐ。

ーー覚醒せよ!

その行為も虚しく、やはり頭に直接聞こえているのか、その声を遮断することは出来なかった。