「先生。なんとかなりまへんか。」探偵は八十年配の痩せて長身の老人に声をかけた。先生と呼ばれた老人は、杖をブラブラとさせて、なにかを考えていた。そして突然、探偵に「この人は。」と春男のことをたずねた。

「今回の張本人ですがな。」探偵は春男の背中を押して、挨拶をするように仕向けた。「なんや。ちゃんと挨拶できるやないか。」老人はそういうと、春男に握手を求めた。「ほう。やる気はあるみたいやな。」老人は握手しながら、そういった。

「費用はだされへんねんな。」老人は探偵に切り口上した。「すまんことです。」探偵は頭をかきながら、謝った。「安くあげるには、自分でやることや。そやけど、形だけは必要やわな。」老人はそういうと、春男のほうを長いことみつめていた。

「そうやなあ。自分で出来んことは人にやってもらうしかないな。けど、費用もだされへんねんな。物は欲しいけど、銭がないという状態やで。」老人はそういうと、探偵のほうをじっとみつめた。探偵は顔を赤く染めながら、下を向いている。

「多少の経費はだせるんかいな。」「多少て、先生どれほどのことでっか。」探偵はそうお伺いをソロリと立てた。「代書代やけどな。そんなに高いことはいわんやろ。」「代書代でっか。」探偵は元警察官なので、元同僚や先輩格の人物の職業に代書屋が数人あることを思い浮かべた。

「大城くんの雇い先へ願ってみますわ。わしの探偵料もそこで、支払ってもらいましたんや。」「そうかいな。それやったら、そうして貰い。」老人はスッと立ち上がった。

老人の弁護士事務所は商店街の中程にあった。いまは事務所は閉鎖してある。しかし以前の依頼人や地域の顔役がなにかにつけて、相談にやってくる。そんなときは、家族に内緒で、事務所からすぐ近くの児童公園で内緒の相談をしては、小使いを得るのであった。

老人は事務所に戻ると、名刺を一枚持ってきた。そして裏に紹介状を書いてくれた。