健康診断は区役所の、普段登らないような階で行われていた。
平日だからだろうか、あまり人が居らず、しんとしている。
静かな区役所ってのはそれだけで居心地の悪い所だ。

手続きを手早く済まして、血圧検査・尿検査とこなしていく。

最後に血液検査が残った。

名前を呼ばれドアを開けると私服の女性が立っていた。
齢は還暦を過ぎているだろうか?
昔よく駄菓子屋に居た様な、ふくよかな感じのおばちゃんだ。
アイスの当たり棒を持っていっても、取り合えず一度自分の店で買ったのかどうか疑うタイプの。

促されるままに椅子に座った。

まさか、このおばちゃんが採血するわけじゃないよな?

しかし悪い予感程、良く当たる。
どうやらこのおばちゃんは、鋭利な針をわたくしの血管に突き刺すつもりらしい。

私服…。
せめて白衣でも纏っていてくれたのなら安心もしたろうに。

湧き出る不安を押さえ込む様に「この方は長く有名大学病院で看護師長を務められて、去年惜しまれつつも定年退職されたのだ。そこを区役所が、この技術を野に埋もれされるのは行政の罪だと、三顧の礼を持って現場に復帰させたスーパーな看護師さんに違いない」と思い込むことにした。

すると強ちその予想は外れていなかった。