散々走り回った挙げ句、ハクはどこにもいなかった。
 俺は家ではなく、森へ戻った。
 いつもの桜の木の下に座って、ぼんやりと空を見上げていた。
「……どこ行っちゃったんだよ……」
 俺は目を閉じた。
 葉っぱが擦れ合う音しか聞こえない。
 ゆっくりと目を開けると、そこにはすごく小さくなったハクがいた。
「ハク!」
 ハクは嬉しそうに笑って、俺の手のひらに乗った。
 俺はハクに会えて嬉しいはずなのに、何も言えなかった。何か口にすれば、あの夢が現実になりそうな気がして……。
 ハクは愛おしそうに俺の手のひらに頬ずりをした。そして顔を上げ、寂しそうに笑うと、俺の手のひらを降りた。
「ハク……?」
 ハクは手を振った。その顔は笑ってた。泣きながら笑っていた。
 笑いながら、ハクは消えた。光に溶けるように、霞んでいくように……。