50男の恋

俺、ピッチャーしてたんだ。
あんなに野球が好きだったのに、忘れていた。懐かしい想いが胸に込み上げてきた。

「野球、今はやってないんだ。大学で肩こわして、それっきりさ。
同窓会には行くよ。久しぶりにお前らにも会いたいしな。」

「そうか、良かった。楽しみにしてるぞ。
必ず来いよ。
お前が好きだった前田も来るからな。
じゃあ、また今度な。」

「おぅ、またな。」

電話をきると同時に、頭が真っ白になった。
前田。前田夕香里。

忘れていた名前とともに、淡くて切ない想いが胸に溢れた。

前田さんが来る。
前田さんが来る。

自分では忘れていると思っていたが、本当は胸の奥底に大事な思い出としてしまってあったのだ。

その証拠に、自分は今、会社のデスクから1歩も動けない。いや、動きたくないのだ。

前田さんが同窓会に来るという事実を噛み締めたい、と同時に、同窓会に行く自分が怖くなる。

俺はもう50だ。あのころの若さも情熱もない、ただのオジサンだ。
前田さんは、こんな俺を見てどう思うだろうか。
きっと、幻滅するだろうな。

いや、相手も50なんだから、俺だって幻滅するかもな。女の方が、歳が顔にでるからな。

なんて、あれこれ問答するうちに、気がついた時には、終電ぎりぎりの12時15分だった。