いつも一緒にいく友達が急にいけなくなってしまったそうだ。

「ちょっとうるさいかもしれないけど、
人気のバンドもでるから付き合って、お願い！！」

最近流行のバンド名をいくつかきいたが、
紗理奈のお気に入りのバンド名は初めて聞いた。紗理奈はそのバンドを追っかけて、東京や沖縄に飛んでいく。あそこまで熱くなれるものがあって、単純に羨ましいと思う。私には今までも今も熱くなれるものがない。ヒロシにもないような気がする。少しの間だけ夢中になったのは、小学校５年生の時に書いたお話だった。授業中も晩御飯のあとも夢中で書いた私とチェッカーズふみやの恋の物語は、担任の先生の「やり直し」という一言で終了してしまった。夏休みの自由研究として相応しくはなかったかもしれないけど、あまりにもあっさりさっぱり切り捨てられた私と私にだけやさしいふみや君のお話｢神様ヘルプ！｣と情熱は、教室の片隅の燃えるゴミ箱へ吸い込まれていった。その週の土日に、理科の教科書に載っていた先生が喜びそうな実験をし、自由研究としたらAをもらえたがまったく嬉しくなかった。先生の喜びそうな実験はドキドキもワクワクもない。


ライブハウスには、タオルを首に巻き、ハーフパンツにバンドTシャツという子が殆どで、タイトなミニスカートにキャミソールの私は完全に浮いていた。お客さんは、目当てのバンド以外はホールから出てきてタバコを吸ったり、おしゃべりをしたり、ビールを飲んだりしていた。この待ち時間が一人ではきついのだ、と紗理奈は言っていた。ドリンクカウンターで並んでいると、肩がぶつかってしまった男の子に舌打ちをされた。
紗理奈も皆と同じようなかっこうをしていた。Tシャツには＠インディアンハイと書かれていた。沖縄出身のバンドらしい。