でも、
記憶は残酷で、
思い出から、
八巻の記憶が抜けていく。

曖昧になって、
声も、
顔も、
おぼろげで。

ちゃんと写真現像しておけばよかった。

そのフィルムは、
どこかに行ってしまって、
後から、
金井とかにもらったけれど、
つらすぎて焼いてしまった。

後悔ばかりが出てきて、
後にも先にも、
こんなに後悔することはない。

だって、
ずっと一緒って、
疑わなかった人が、
突然目の前から消えた。


ずっとなんて、
そんなことはないけれど。
こんな形ってのはあんまりだ。


俺の恋ってのは、
あれが最後だった。

そのあと誰と付き合っても、
美化された八巻と比べてしまう。
その結果、
振られてばかり。


あんなに曖昧な、
記憶に振り回されてた。


美しくされた記憶に。

昔誰かに言われた。

「一愛は人を美化しすぎなんだよ。」



大丈夫だよ。

今の俺は、
誰も信じちゃいないから。



でも、
俺だけが時を追いこして、
あいつだけがずっとあそこに佇んでる。



何年も、
初恋は?
初めて付き合ったのは?
とか聞かれるたびに、
思い出して、
最悪な気分になった。