「俺飛びたい…。」
同時期の事だった。
夜勤で洋ちゃんと、
師長室でよく話した。
そのときこんな言葉が飛び出した。
自由になりたいとかそんなニュアンスだった。
「松永はいいな。」
「おうよ。
何処にでもぶっ飛んでいけるぜ。」
「なんか、
上手くいかなくて。」
生活の事だった。
何かがすれ違い。
気持ちにずれが生じてた。
すごく複雑だった。
6月あたりだったか、
別居騒動が起きた。
俺もそこまで深刻とは思わなくて、
そうかそうかなんて聞いてたら、
想像以上に深刻で、
離れて暮らそうまで言っていたらしい。
四六時中狭い1Rの部屋に一緒に居て、
洋ちゃんが夜勤専門のバイト。
鶴が日勤ばかり。
生活もすれ違ってきた。
洋ちゃんの中にも、
やっと、
バンドが出来る。
全力でそちらに向かいたい。
やっと掴みかけた夢の一欠けら。
優しさが逆に働いた。
もうこの辺になると、
どちらが悪いわけじゃないけど、
行き詰る。
まるでそんな感じ。
俺の印象で言えば、
こんな恋人同士は珍しい。
お互い素直に思ってて、
一途だ。
お互い真面目で、
まじめすぎた。
まあ、
別居の話は、
鶴の反対により、
消え去ったとか。
それからだ。
やっぱり。
行き詰ってたのは確かで、
どうしようもない現状を打破しようと、
お互い必死になってたようだ。
その間も、
洋ちゃんはバンド活動。
鶴と俺が過ごす時間は、
馬鹿に多くなっていた。
週に五回のカラオケとか。
その代り、
減ってたんだろうな。
洋ちゃんとの時間。
逆か?
減ったから俺との時間が増えたのか?
よく分からんけどそんな感じ。

