あのボロアパートにひとりでいるよりイイ
アタシは お湯につかりながら 一息ついた
お湯につかるのって… 何年ぶりだろ
いつもは排泄を済ませた後に 流れた汗と男のニオイを消す為にシャワーにいそいそと入るだけで お風呂にゆったりと浸かることなんてなかった
母親のお腹の中にいる時って…きっとこんな感じなのだろう
アタシは頭の先から足の先まで かっぽりお湯に浸かった
トントン
「大丈夫?」
あまりにも長く浸かり過ぎたのか 心配した山田虎次郎は言った
「もう出る」
アタシは 扉の向こうに 山田虎次郎がいるのを知っていても どこも隠さずに 出た
「これタオル」
山田虎次郎は アタシの身体を見ないように 後ろ手にタオルを渡した
「どうも」
アタシはタオル1枚を身にまとって 名前さえ知らなかった男の前でフラフラと 行ったり来たりした
「酒ある?」
「あ、ああ。ビールならあるよ」
もらったビールをプシュっと開けると グビグビと喉を鳴らして飲み干した



