『母さんが言ってたんだ…父さんはきっと一番大きな光で見守ってくれる…父さんは月に行ったんだって…ここからは月がよく見えるから…だから…』
『……そうかい。ゆっくりしてくといいよ。池の周りは安全だから』

それから毎日、彼女は夜になるとやってくるベルを離れて見守っていた。

ベルは九日の間、毎晩池にやってきた。そして九日目の明け方、ベルは辺りを見回して彼女を探した。
探されている事に気が付いた彼女は、初めて会った晩の様に、ベルの目の前に降り立った。
『月に行くにはどうしたらいいの?』
『…月に…あのね、うまく言えないけど…月に行っても会えないと思うよ…』
『どうして?』
『だからね…月にはいないんだよ…』
『いるよ!父さんも母さんも!月に二つ影が見えてたろ!』
『あれは……そうだねぇ……確かに空から見守ってくれてるだろうけど…』
『もういいよ!』
ベルは沈んで行く月に向かって歩きだした。
『どこにいくんだい?』
『月にだよ』
『もしかして…今までも月を追って歩いてたのかい』
『そうだよ!うるさいな』
彼女は何も言えなかった。彼女が最後に止まった枝から、ベルが歩き消えていくのが見えた。

それからまた、大きな大きな森の中に、小さな鈴の音が響き始めた。行ったり来たり、鈴は小さく鳴った。