小さな滝がある湿地帯に狼達の住みかがありました。狼達は毎日騒いでいました。ですがたった一匹だけ変わった狼がいました。彼は狼なのに襲う事が出来ず、狼なのにリスにすら怯える始末。なにより変わっていたのは誰よりも優しい心を持っていたのです。
彼はある晩もリーダーから配られた生きた小鳥を食べたフリをしで隠し持っていました。
そして深夜、見張り番の時にこっそりと逃がしてあげていました。
『もう捕まるなよ』
彼は夜空に消えていく小鳥を見送りながら木の実は頬張りました。
『何をやってるんだ!』
急な声に驚いて木の実がノドにつまりそうになって咳き込みました。ノドはすぐに楽になったけど、現実は変わりません。目の前には物凄い剣幕で怒るリーダーがいたのです。
『違うんだ…あれは…』
『もういい、おまえは縄張りから出ていけ!顔も見たくないし、仲間だと思われたくもないわ!』

日が昇るまでに縄張りを出る事になった彼の心は、生きていけるかという不安と、自由という安心感でゆれていました。そのうえ彼は縄張りから一人で離れた事はありませんでした。
彼の足は重く重く…
怖がり恐がり…
真っ暗な道を進みました。