深夜だと言うのに
賑わいがまだ消えぬ
夜の街へと、

2人肩を並べて歩いた。


「なぁ、あんた、

生まれも育ちも此処なんか?」

彼が問いかける。


「うん。」

「ええトコやなぁ、
儂も…好きになりそうや。」


思わぬ言葉が耳に入り込んできて、

それは…不意に来た予想外の奇妙な感覚で、

胸を甘酸っぱく照れくさい感覚と嬉しさが込み上げて、

思わず彼の顔の方へと見上げると、

彼は素知らぬ顔で辺りを見渡していた。


袖を軽く引っ張り、

彼を向かせ
私は背伸びをしながら
彼の顔の間近でこの感覚に応えた。


「嬉しい。
この街を褒めてくれて
…ありがとう。」


私はこの時から
彼に惹かれたのだろう。

照れくさそうな目尻の下がった笑顔が蘇る。


丁度、
アメリカンスタイルのカウンターバーの店の前に着いたので、

其処へと入ろうと、
2人の足が店へと向いた。


店内は深夜なのに
外人と日本人で
賑わいをみせている。


飛び交う雑多な言葉が
英語と日本語なのが
この街ならではの
特色なのだろう。


何故か、

雑多の中ならではの
安らぐ時間。


異種混合な亜空間は
そう、どこか…

違う世界に入り込んだ
みたいでもあり、

また、

郷愁を感じるのは
自分自身が心に傷を
負っていたからかも
しれない。


カウンター席しか無い
店内。


その奥に進み
2人並んで腰掛けると、

向き合って座るより
近くに顔があるのと、

肩が触れ合う距離感で
お互いの親密感が増した様な、

そんな気がした。