当時、

スナックを開いた友達に頼まれ
正規の従業員が見つかる間だけ、

仕事の合間に手伝う事になった。



三階建ての雑居ビル。


古く所々タイルの剥げ欠けた階段を、

ゆっくりと
一つ、また一つと
足元を見ながら
上がって行くのが好きだった。


ドアを開けると開放的なフロアが広がり、

所々に置かれたテーブル席だけを見れば、

喫茶店みたいな空間だったが、

ドアづたいの壁の中央には
男性が5~6人立って歌えるステージ、

ドア側の少し長めのカウンターと
少し高めの椅子が、

正しく
飲み屋の雰囲気を醸し出していた。


初めて出す店としては
少し広過ぎる様な気と、
これからの商売の一抹の不安感を覚えたが、

それは
余計な事だし、

前途洋々と意気込んでいる彼女に対して
言うべき事では無いので、

口を噤んだ。


だけど、

其処から見る
三階の薄いカーテン越しに映る景色は、

すっきりとした
明るい彼女の雰囲気に
とても良く似合っていた。


多分、

そこが借りられたのは
駅から少し離れた場所である事と、

きっと…、

彼女の人徳もあるのだろう。


そんな風な女性だった。


まだ、

開店して間もない店はお客もまばらで、

儲けも少なかったが…

時間の合間にお通しや一品料理、

新しいカクテルを2人で作っては
失敗する方が多く、

2人笑いながら試行錯誤しながら、

楽しい日々が過ぎた。


そんな日々の中で店に連日の様に来店しては、

羽振りの良い2人の男性がいた。