怖いもの知らずの隆雅にとっては好都合だった。 人が寄り付かないこの場所が気に入り、今度暇な時、煩い父親から離れてここに来ようと決めていた。 だが、なかなか暇がない。 行きたいのに行けない…。 だったら、出仕がない夜に行こう。 …そう思った。 そして今夜この場所に来たのだった。 「今夜は、満開だな…」 隆雅は門をくぐり、すぐ側に立っている桜の木を見上げて呟いた。 ひらひらと花びらが落ちてくる。 月の光を浴びた桜は昼に見るより、とても美しかった。