暑くもなく寒くもなく、肌に心地よい気温に調節された人工島の整然と管理されたタウンでは、ただ、平穏な時間だけが流れている。

ここに生きるのは、選ばれた者たちだった。

地球上が戦火に沈む少し前、厳しい基準によってパスした者だけが移住したスペース・コロニーなのだ。

戦火が拡大して、事実上、コロニーと地球との往来が不可能となってしまった今、このコロニーは、誰が呼んだのか『ノア』と異称されるようになっていた。地球自体を何度も破壊できるほどの兵器を構えて各国が睨み合う最終戦争のさなか、ラグランジュ・ポイントに浮かぶ人工島は、神が残した最後の箱船だった。



2036年。

最終戦争の渦に呑み込まれた地球は、滅亡の淵にあった。