あぁ、ほんとにダメだな。

この声を聞くたび、
俺はどうしても打ちのめされる。


イントロのギターの音と同じくらい
静かな響きでそれは始まる。

歌うというよりはささやくような声。

一転して
静寂を打ち壊すような激しいギターの音が
癒しの歌に突き刺さる。

その声もそれに呼応して
激しく、ヘビィに表情をかえる。


人間の聴覚を狂わせるような
高音の叫び。

一方で少年を思わせるような
低く清らかなアルト。

そんな静と動のコントラストを
繰り返しながら歌声は展開する。


同じように
静と動を携えたギターがそこに絡み
ベースとドラムが独特のリズムで
お互い競うように旋律を刻みこむ。


こんな、曲が曲として成立する
ギリギリのところで
メロディは進行していく。


俺は頭を振って気持ちを切り替えると
意識して足に力を入れて立ち上がった。

部屋の片隅に置かれた冷蔵庫から
缶コーヒーを二本取出し
一本をケンゴに差し出す。


しばらく待っても受け取る様子がないので
静かに缶を床に置いた。

手元の缶コーヒーを
弄びながら視線を上げると
視界に映ったのは焦点の合わない
虚ろな目をしたケンゴ。

震える右手を
反対の手で押さえるようにして
スピーカーから流れてくる
その音を受けとめていた。


曲が終わると再び大歓声と拍手が聞こえ
そこで音が終わる。


部屋に再び静寂が訪れ
どれくらい時間がたったかわからないけど
それを打ち消すように
静かにケンゴが口を開いた。