「藤ケ谷 遼(リョウ)君ともあろう者が
何をそんな古い話を」

「人のことフルネームで呼ぶな」

「んっと、ユカとはおととい別れた」

「何で」


間髪入れずに聞いてやると
ヘラリと笑って言ってのける。


「ユカの友達に手だしたのバレタ」

「アホ」

「ですよね〜」


年上がダメになったとたん年下かよ。

白い目で見てやったのに
チャラ男は全然反省した様子もなく
ニヤニヤしたまま窓の外を眺め続けてた。


「ったく、そんな身近なとこに手だすな」

「だって誘ってきたの向うだぜ」

「節操なしかよ」

「その言葉リョウだけには言われたくねえ。
来るもの拒まずのお前に」

「アホ、俺だって選ぶわ」


鼻で笑って言ってやる。
我ながら低レベルな争いだ。


「ああ、確かにリョウはそうやって
綺麗どころばっかりと
隠れて上手いことやってんだよな〜。
中身はこんな最低男なのに」

「それこそお前ににだけは
言われたくねえな」

「いやいや。
だからそっちこそ……」


永遠に続くだろう意味のない押し問答。


……まぁこんな感じで。
そっち方面でもコイツとは
やけに気が合っちゃってる
切っても切れない関係って訳。


その流れのまま
くだらねー会話を重ねる俺らの間。

サラリと吹き込んだ爽やかな風が
カズマの少し長めの前髪を揺らしていく。

人気バンドのボーカリストを真似た髪型。
はやり物に弱いこいつらしいチョイスだ。


そんな奴の顔やら腕をよく見たら
小さな引っ掻きキズ多数。

こりゃ相当修羅場ったな。
このアホ男。


再度呆れつつ
座ってた机から飛び降りて
教室の後方に向かった俺の背中に
能天気なカズマの声が届いた。


「まあ何だっていーじゃん。
そもそも可愛い子探しの為だけに
新入生チェックしてるわけじゃないし」