泣き出すかと思ったら
アキは反対に鋭い目で俺を睨み付けた。


「リョウに何言われても
私は決めた事を変えるつもりはない。
いつかあの場所に行くまでは
自分の気持ちはユウキに伝えない!」

「そんなうかうかしてると
他の誰かにとられるんじゃねーの?
相手は人気ロックバンドのボーカリストだ。
女なんて腐るほどよってくんだろ」


今日のユウキの態度見たら
そんな事は100%ありえないって
解ってるのに
心の狭い俺はアキを追い詰める。


「そうなったらそうなったで
仕方ないと思ってる」

「そうだよな。
現にお前だって俺に迫られて
あの電話さえなけりゃ
最後までやりそうになったし」

「……それは、」

「もしかして俺もユウキに見えたとか?
全然似てねぇだろ。
あぁそっか、あの直前
俺アイツのギター触ってたっけ」

「……違う」


頭の中が熱く燃えたぎって
自分自身の制御が出来ない。


「何が違うんだよ?
そんな顔して
ユウキに悪いとか思ってんだろ?
別に気にすることないだろ。
アイツとは付き合ってねぇんだから。

何なら今から続きするか?
アイツの変わりだろうと何だろうと
俺はやれるんならどっちでもいいし」


そう言って
アキの手を掴もうとした俺の頬が
激しい音を立てて熱を帯びた。

俺を叩いた掌を震わせながら
涙の溜まった大きな目で
さらに睨み付けるアキ。


……一瞬だけ胸が痛んだけど
――悪い、もう止められそうもない。


「あんなのたかがキスだ。
そんなに気にすることじゃない。

お前も具合が悪かったし
熱でどっかおかしくなったと
思えばいいだろ。

もう、忘れろ。
……俺もそうするから」