そうして搬入口から建物の中に入り
ベースを抱え直しながら
エレベーターの到着を待つ間考える。


自覚もあるし
俺の気が立ってるのは置いといて
(自覚あんなら直せって?)
ケンゴは何で気が立ってるんだ?


音楽の事になると
潔癖になるのは解るにしても
普段ならもう少し
冗談っぽく笑い飛ばしながら
余裕のある言い方すんのに。


俺みたいにアキのことが心配だから?

……多分、違う。


エレベーターが三階に着き
先を歩くケンゴに
話しかけようとしたところで
向こうからライブハウスの店長が
歩いてくるのが見えた。


揃って挨拶をすると、
ドレッドの頭を掻きながら
年齢不詳の店長がニッコリと笑う。


「ああ、時間ピッタリだね。
今日はよろしく頼むよ。
チケットも前売りかなりはけてるからさ。

前に打ち合わせした通り
今日の出演は4バンドで、
君達の出番は3番目。
……だからだいたい
7時半ぐらいになると思うよ。

あと詳しく機材の事とか
PAと照明については
担当のスタッフがもう中にいるから
それぞれ打ち合わせしてね。
タイムテーブルは楽屋に貼ってあるから。

楽屋はそっちの青いドアの方。
“DeFaut”の人とも一緒だから
仲良く使って。

わかってると思うけど
他のバンドと揉めたり
法に触れるような事したら
永久的に出禁にするからね。
それじゃ何か質問は?」


「煙草ぐらいはオッケーすよね?」
とか聞こうと思ったけど

ラストの方を話したときの店長の目が
ありえないほど鋭く光ったから
ちょっと躊躇した。

……まぁ吸わない方が懸命だろう。


一方隣に立つカズマが
のほほんとした様子で


「DeFautのメンバーは
もう来てるんすか?」

「ああ、ついさっき来たとこで
楽屋にいるよ」