――ざわざわと話し声がして
バタンといきなり部屋のドアが開いた。


「けむっ!」

「何や、家におんかい」


煙草をくわえたまま振り向くと
顔の前で空気をよけるように
手を払うカズマと
俺を見てつまらなそうな顔をするケンゴ。


「人の家勝手にあがりこんで
その第一声はないんじゃね?」

「上がり込んだとか人聞き悪いな。
みっちゃんが快く入れてくれたのに」

「カズマ
人の母親をちゃん付けでよぶとか
止めてくんねーかな」

「まぁまぁいーじゃん」


そう笑いながら
肩に担いでた俺のベースを下ろすカズマ。

今日アキを送って行くにあたり
荷物は少ない方がいいだろうってことで
こいつに預けてた為だ。

軽く礼を言うと
なんて事ないって風に手を振り
部屋の窓を開けた。


煙草の煙が充満した部屋が
次第に浄化されていく。


俺は手に持ってた煙草を
吸い殻で山になった灰皿に押し付けると

その一連の動作をじっと見てたケンゴが


「一体何時間ひきこもってんねん」


と抑揚のない話し方。

時計を見ると夕方の6時だから
約5時間半はこうしてた事になる。

通りで背中がイテエはずだ。

――ってかそれよりも


「ケンゴ
なんか機嫌悪くねぇ?」

「お前の携帯がいくらかけても
つながらへんからや!
今日のスタジオ練習
忘れてへんやろーな?」

「忘れてねーよ。
7時にいつものとこだろ?」

「おお、それならえーねん」


とたんに笑顔。

ケンゴは音楽からむと時間に
めちゃめちゃ厳しい。

いつか15分遅刻した事があって
そん時は本気で殴られて
腫れが2週間引かなかったぐらい。

ああ、怖ぇ。


すると窓の近くに座ったカズマが
脳天気な声で


「でもさ、リョウ
何で携帯つながんねーわけ?
西条病院にでもつれてったとか。
あいつそんな悪いの?」