なんとなく手持ちぶたさで
俺は着ていたデニム素材の
ミニタリージャケットを脱ぎ
前のバーにひっかける。

深めにかぶった
グレーのキャップの位置を直したり
腰につけたゴツメの
ウォレットチェーンを指で弄んだり。


やべぇ、余裕のない人間になってる。


すると視界に紙コップ。


「これでも飲んで、ちっとは落ち着け」

「サンキューカズマ」

「ちなみに中はジンジャエールだから
アルコールじゃなくて悪いけど」


そう言って俺の隣に立ち
自分の分の飲み物に口をつけていた。


「あっ、サウンドチェック始まったで」


遅れて戻ったケンゴが
ステージを指差しながらカズマの隣に立つ。

視線を向けると
3人の男達がステージに現われ
楽器のセッティングを始めたところだった。


「あのドラムの奴、強そうやな」と
ケンゴが腕をボキボキとならす。

「あのベーシストなら、俺勝てそう」と
顎を撫でなでるカズマ。

当然俺は――


「ギタリストは五分五分ってとこだな。
……ってお前ら
喧嘩になったときの事
想定とかしてんじゃねーよ」

「お〜、乗り突っ込みー!
結構余裕だね〜、リョウくん」


マジぜんぜん余裕ねえから
慣れない事させないでくんねぇ?