空は高く、空気は澄みきっていた。


私は空を仰いで、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。


今まで眠っていた細胞の一つ一つが目覚めていくのを感じる。


今まで感じたことのない爽快感と充実感。


優しい空気が私を包む。


朝の散歩は、私の最近の日課の一つだ。


人が少なく、なんだか世界を独り占めした気分で嬉しくなる。


最初はダイエットの為に始めた散歩も、今では立派なライフワークの一つになっている。


季節を感じながら、川沿いの遊歩道を歩くのがいつものコースだった。


桜咲く。


最近は桜を見ながら春を感じる。


まだ咲き始めたばかりだが、桜色の花びらは私の心を引き付ける。


時折立ち止まっては、ゆっくりと桜を眺める。


桜にも個性があって、見ていると段々と違いが分かってくるものだ。


私は、花びらや蕾の一つ一つを見たり、木全体のバランスを見たりして、好みを桜を探した。


私のお気に入りは、少し細目の幹にたくさんの蕾を付けている桜だった。


まだ花びらは余り開いていないけど、満開になったらこの子が一番綺麗に咲く。


なんだか、そんな気がした。


それ以来、私はこの桜に名前を付けて、毎日話しかけている。


以前読んだ本に、植物は音楽を聴かせたり、話しかけたりすると綺麗な花を咲かせると書いてあったからだ。


名前はゆうさく。


優しく咲くと書いて優咲。


男らしさの中にも可憐さがあるようで、私はかなり気に入っていた。


「綺麗に咲くんだよ、優咲」


私は優しく話しかける。


そう、植物だって話が分かるんだ。


だからきっと、優咲は私の為に綺麗に咲いてくれる。