そう・・・と言って成明は少し笑った。

倫に周一郎の思いが通じたことがわかり、心のわだかまりが取れたのだろう。

ロープを掴み、壁を本棚に戻した。

理系の書物の並ぶ本棚。

それらを見ただけでも、父が周一郎だとわかりそうなくらい倫の興味をそそるものばかりだった。

「あの・・・写真の代わりに、この本いただいてもいいですか?」

そう言って、近くに見えた分子生物学の本を手にとった。かなり古い本らしく、擦れて汚れていた。

写真はキヨに見つかったらまずいが、本ならきっと何も気づかれないだろう。

「どうぞ。1冊でいいの?」

「はい。」

「・・・君はまだ若い。何か困ったことがあったらいつでも私を頼ってくれていいんだよ。

それを忘れないでくれるか。かなり歳は離れているが・・・君の兄なんだから。」

倫は何も言わず成明を見上げた。

この人のことは嫌いではない。それでも兄として頼ることは無いだろう。

この部屋に来ることももうない。

倫は最後にぐるりと部屋を見回し、外へ出た。