「よう、無事終わったな」

帰りのバスで、嵐山が倫に言った。

倫は上の空で、はい・・・と答えた。

昨夜の薫と過ごしたひと時を思い出していた。

嵐山がためらいがちに質問する。

「あのよ、九条はお前の男じゃないっての、本気か?」

倫はようやく窓から視線を嵐山に移した。

「・・・本気ですけど・・・。」

嵐山はうーんとあごを撫でた。

「なんですか・・・?」

倫はもうこの質問は正直うんざりだった。

「いや、行きのバスでお前、俺の肩にもたれかかって寝てたろ?

疲れてると思って起さなかった俺も悪いんだけどよ、休憩でバスからみんなが降りる時、まあ、じろじろ見られたわけだが」

倫は思い出して赤面した。

「す、すいませんでした・・・」
「いや、それはいいんだけどよ。九条が通った時に目が合ってよ。もうすげえんだ。」

倫はどきりとした。

「すごいって、何がです?」
「目がよ。俺への敵意っつーか、嫉妬心?で溢れてたなあ。さすがの俺も少しびびったな。」

倫は昨夜、薫が言っていた言葉を思い出した。

『俺は、自分がこんなに嫉妬深い男だと思わなかった・・・。胸が苦しくて・・・。』

「あれは間違いなく恋に狂ってる奴の目よ。

・・・あいつ、最初に学校に合宿の申し込み行った時も、最後にすげえ力で手握り返してきやがったから、何かおかしいと思ってたんだ。」

倫は薫が嵐山に対して激しく嫉妬していたことを初めて知った。

倫は何も言えずうつむいた。

手にしていたアンケートの束を見つめる。
薫のアンケートを探した。
昨日はチェックしている時間がなかった。

綺麗な字で質問に答える薫のアンケート用紙を見て、倫は涙が堪えられなかった。


『科学の分野で最も興味があるものは何ですか?』

『スーパーノヴァ』