「倫、ほれ、線香」
キヨが倫に灯をつけた線香を渡す。
日が暮れかかった夕方、キヨと倫は墓参りに来ていた。
幸子が好きだったというカラーを花入れに入れた。
倫は線香をあげ、目を瞑り手を合わせた。
キヨもその横で手を合わせていた。
いつもより長く、キヨはそうしていた。
倫に出生の事実を知らせた報告をしているのかもしれない。
「お母さんの戒名って、「幸」と「願」って字が入ってて、なんかいいよね。」
倫は彫刻された幸子の戒名を見てぽつりと言った。
「ずっと世話になってるお坊さんにつけてもらったんだよ。子供を残して死んでいくけど、子供の幸せをいつまでも願ってるはずだっていってね。」
倫は墓をじっと見つめた。
母がもし今生きていたら、薫を好きになってしまった自分に何て言うだろうと思った。
その問をキヨにできるはずもなく、代わりに別の質問をした。
「お母さんはなんで’倫’て名前をつけたのかな。」
キヨが墓のまわりの雑草を取りながら答えた。
「お前さんが生まれて、なかなか決まらなかったみたいだったけど、申請の期限が迫った頃に『倫にする』って言って、さっさと申請しちまった。
倫理の倫だし、いいねえってことで時間もなかったし、それで決まりさ。
理由を聞くと『響きがいい』とか『一文字で意味のあるところがいい』とか言ってたかね。」
キヨが倫に灯をつけた線香を渡す。
日が暮れかかった夕方、キヨと倫は墓参りに来ていた。
幸子が好きだったというカラーを花入れに入れた。
倫は線香をあげ、目を瞑り手を合わせた。
キヨもその横で手を合わせていた。
いつもより長く、キヨはそうしていた。
倫に出生の事実を知らせた報告をしているのかもしれない。
「お母さんの戒名って、「幸」と「願」って字が入ってて、なんかいいよね。」
倫は彫刻された幸子の戒名を見てぽつりと言った。
「ずっと世話になってるお坊さんにつけてもらったんだよ。子供を残して死んでいくけど、子供の幸せをいつまでも願ってるはずだっていってね。」
倫は墓をじっと見つめた。
母がもし今生きていたら、薫を好きになってしまった自分に何て言うだろうと思った。
その問をキヨにできるはずもなく、代わりに別の質問をした。
「お母さんはなんで’倫’て名前をつけたのかな。」
キヨが墓のまわりの雑草を取りながら答えた。
「お前さんが生まれて、なかなか決まらなかったみたいだったけど、申請の期限が迫った頃に『倫にする』って言って、さっさと申請しちまった。
倫理の倫だし、いいねえってことで時間もなかったし、それで決まりさ。
理由を聞くと『響きがいい』とか『一文字で意味のあるところがいい』とか言ってたかね。」

