薫の高校は倫の大学からさほど離れていなかった。

幼稚舎から大学まで揃っている超名門校の男子校である。

門の前で倫は二の足を踏んだが、嵐山がづかづかと進んでいったのでしかたなくついていった。

受付で薫と薫の担任の先生に会いたい旨を伝えた。

倫は心臓の鼓動が早くなり、いてもたってもいられず嵐山の近くでうろうろと歩き回った。

倫はそこで初めて二人とも白衣なことに気がついた。

「せ、先輩、白衣!脱いだ方がいいですよ!」

嵐山は何を言ってるんだといった顔をした。

「別にいーだろ。俺の場合、白衣脱いだ方が失礼な格好してっからな。

お前脱いだらいーじゃねえか。」

倫が慌てて脱ごうとした時、声をかけられた。

「誰かお探しですか?」

振り向くとそこには丹精な顔立ちのめがねをかけた少年が立っていた。背がとても高い。薫と同じくらいかもしれない。

「いや、今呼んでもらってるから大丈夫です。ありがとう。」

嵐山が無愛想に答えた。

「その白衣・・・大学生ですか?」

少年が二人の白衣の胸元の刺繍を見つめた。
大学の校章が刺繍されている。

「ああ、そうなんだ。俺ら交流合宿のお願いに来たんだけど・・・。君、理系志望?文系?」

少年はめがねをくいっと持ち上げて答えた。

「理系です。」
「ふーん・・・。じゃあ、九条薫って知ってるかな?彼に会いにきたんだ。今年の合宿にぜひ参加してほしくて。」

薫の名前を聞いて少年の顔つきが変わった。

「薫に?なぜですか?」

嵐山は倫をひっぱって指差した。

「なんだ、やっぱり知ってんだな。

なぜかって?まあ、いろいろ事情があるが、こいつが九条の女だから頼みやすいかなーって。」

倫はぎょっとして、慌てて弁解した。

「先輩!何言ってるんですか!そんなんじゃないです!」

この人はなんでこういうことを平気な顔して言ってしまうのだと倫は一緒に来たことを後悔した。

少年が倫をじっと見つめている。

「薫の・・・女?」

倫は少年に向かって言った。