嵐山が振り返り、神妙な面持ちでうつむいている倫を見つめた。

「あのなあ・・・。俺だって喜んで行くんじゃねえんだ。

お前に’行かない’という選択権は残念ながら無いんだ。ホレ、行くぞ。」

「嫌です!・・・すみませんけど、先輩1人で行ってきてください。」

倫は心底懇願した。

あれからまだ一ヶ月も経っていない。

もう会わないと言っておいて、自分から会いにいけるわけはなかった。

「おい、喧嘩してんだかなんだか知らねえけどな。今は休戦だ。教授サマの命令だからな。」

「私が行かなくてもいいじゃないですか。毎年教授が直接頼んでるはずです。

今年にかぎってなんで・・・。」

嵐山がため息をついた。

「知らねーよ。九条のとこは超一流ガッコだからな。普通に頼んでもうちみたいな大学相手にされねーからだろ。

其処へ来てお前が知り合いってんなら、直接お前が話つけてこいってことだろ。」

倫は頭を抱えた。

(なんでこんなタイミング悪いんだろ・・・・。)

そんなこと頼めるわけなかった。どんな顔して会えというのだ。

嵐山がタクシーを止めた。

倫を強引にタクシーに押し込み、行き先を告げた。

「おい・・・顔色悪いぞ。大丈夫か?」

倫は自分では気がつかなかったが顔面蒼白だった。

「・・・先輩、私、行きますけど、合宿の説明するの先輩にお願いしていいですか・・・」

倫は顔を見られる自信もないのに、話をするなんてまず無理であろうと思った。

「そりゃ、いいけどよ・・・。なんだ、お前、何かあったのか?」

嵐山は今更倫を心配しだした。

「まあ、あれだ。おそらく断られるだろうから、とりあえず教授へのタテマエで行くだけだ。すぐ帰ろうぜ。」

倫は薫が断ってくれることを願った。

仮に、もし受け入れられても倫は合宿に参加するのはやめようと思った。