「おい、小山田行くぞ」

倫は研究室でレポートを書いてるところだった。

「はい?・・・どこにです?」

嵐山がふてくされた顔をして言った。

「なんだ、聞いてねえのか。あれだよ、お前の男のところに行くんじゃねーか。」

倫はもう一度「はい?」と間の抜けた声を出した。

「あのなぁ、俺ぁ、忙しいんだ!ものすごく!

そんなことをしてる暇なんかねーのに、教授がお前と一緒に行ってこいってゆーからだなあ・・・。

とにかく早く支度しろ。」

倫は何のことだかさっぱりわからず、とりあえずPCを閉じた。

「あの、先輩一体何のことです?」
「歩きながら話す。行くぞ。」

倫はとりあえず嵐山に従ってカバンだけ持って研究室を出た。

「せ、先輩、あの・・・」
「今年のガキ共との交流合宿、お前の旦那の学校にしてもらうよう頼みに行くんだよ」

嵐山の歩調は早く、倫は小走りでついていった。

交流合宿とは、高校生たちと一緒に実験や天体観測などを行い、理系学生を集めるための大学側の企画で、毎年夏に1泊2日で群馬県にある研修所で行われる。

「旦那って・・・」

倫は足を止めた。

「九条のとこの高校だ。

お前が九条のガキと知り合いだってのを誰かから聞いて教授がご指名したんだ。

九条にうちの大学来てもらって、寄付をたんまりもらうって算段だろ。」

倫はその場から動けなかった。

「私・・・行けません」