制服を着ている薫は少し幼く見えたが、倫を見つめる漆黒の瞳は大人びた色気を帯び、君が好きだ、と訴えかけている。

「今まで・・・女の人に夢中になるなんて、くだらないと思ってた。時間がもったいないって。

でも今は違う。気がつくと君のことばかり考えてるんだ。いつも・・・会いたいって思ってる。」

倫は胸がぎゅうっと締め付けられ、泣きそうな顔になった。

「君は・・・?少しでも俺のこと思い出してくれるの?」

薫が切なげに囁く。

視界の片隅で流れ星が流れた。

薫が体を傾け、倫にキスする。

最初は優しく、徐々に深く、強くなるキスに倫は心の中で叫んだ。

(だめ!だめなんだ!こんなことしたら・・・!倫、しっかりしろ!)

倫は薫の体を思い切り突き放した。

「私は・・・」

唇を噛んで、ぎゅっと目を瞑った。

そして、意を決して言った。

「私は・・・あなたのこと、好きじゃ、ない・・・。」

薫の表情が曇っていくのが、暗くてもわかった。

「他に・・・好きな人がいるの。だ、大学の先輩なんだけど・・・。」

倫は明るく言うように勤めたが、顔が引きつってまるで笑えなかった。

薫の目を見つめる。

そこには切なげで、これ以上ない悲しみを帯びた瞳があった。

倫は胸が引き裂かれる思いがした。

「・・・本当?」薫が苦しげに呟いた。

「本当よ。最初から、あなたのことは弟のようにしか思ってない。」

倫はこれ以上薫の目を見ていられず、顔を背けた。

「ごめんなさい。もうあなたには会わないわ。私のことは・・・忘れて。」

そう言って薫から離れた。

出会ってはいけなかったのだ。早く忘れなくてはいけない。

倫がドアノブに手をかけて出て行こうとすると、薫が倫の背中に向かって言った。

「忘れないよ。」

倫は動きを止めた。

「俺は・・・この先もずっと君が好きだ。想うのは自由だろ・・・。」

倫は振り向かず、喉まで出掛かっている言葉を飲み込んで外へ飛び出した。