「二人ともやめなさい。

私はそういうことで君にこれを渡すのではないよ。

父が本当なら君の世話をするべきだったのに、何もしてあげられなくて申し訳なかったと思っているんだ。」

薫の伯父は優しく倫に語りかけた。

「いりません・・・」

倫が苦しそうに、搾り出すように言った。

薫の伯父が「え?」と言って倫を覗き込んだ。

「そんなものいりません。この家とは何の関係もないと思ってます。

これ以上私に構わなくて結構です。・・・失礼します。」

そう言って出て行こうとした。

薫の伯父がすかさず倫の腕を掴んだ。

「待ってくれ。関係ないことはない。父は君の事を・・・。」

「やめて!」

倫は叫んだ。

「やめてください。もういいんです。お金なんていりません。口外もしません。そっとしておいてください。

それが私の願いです・・・。」

倫は涙をぼろぼろ溢しながら、悲痛な声で訴えた。

薫の伯父がたじろいで手の力を緩めた瞬間に、倫はするりと抜け出し、ドアを開けて出て行った。

(もう・・・嫌だ!こんな家、早く抜け出したい!)

倫は走って外へ出ようとしたが、家が大きすぎてすぐに迷ってしまった。

夕日が差し込む廊下の突き当たりでうずくまって泣いた。

(キヨちゃん・・・キヨちゃん!)