「あの、野菜男の子だと思うじゃないか。

だからはやく結婚しなって言ったんだ。

けど幸子は泣くばかりで何も言わない。

これはおかしいと思って、男を呼ぶって言ったんだ。そしたらすごい剣幕でそれだけは止めてって言うんだよ。

それでやっと事情を話し始めた。

あの子は、あの夜遅く帰ってきた日にねえ・・・。」

キヨが言葉を詰まらせた。煙管を持つ指が震えている。

「会社の社長に・・・無理やりされたって言うじゃないか・・・。

あたしゃぁ、そりゃ驚いたってもんじゃないよ。

幸子がいっつも『社長さんはとてもいい人だ』って話してたんだから。。

でも、実際はそうじゃなかった。あの子も可愛がってもらってたから、気を許してたんだろうねえ。

そこを狙われちまったんだよ・・・・。」

倫はめまいがした。

無理やり・・・?それって・・・まさか・・・。

「もちろんあたしは怒ってねえ。

責任取らせるって言ったよ。嫌がるあの子を無視して会社に怒鳴り込みに行った。

でもいくら言っても社長さんには会わせてもらえなくて、最終的には警察が呼ばれて連れてかれてねえ。

捕まえるのは向こうだって言っても聞きゃしないよ。

大会社の社長で、ご立派な家柄の男だったんだから。」

倫は小さくまさか・・・と呟いた。全身が震えていた。

「それが九条のじいさんだよ。九条周一郎。

去年だかおととしだか知らないけど、もう死んでいないけどねえ・・・。」

そう言うとキヨは思い切った様子で倫の顔を見た。

二人の間に重たい沈黙が流れる。

「キヨちゃん・・・」

「お前さんの父親は九条のじいさんさ・・・。これがお前さんの知りたかった『理由』だよ。」